似通う政策、戸惑う市民、本当の争点は何か?

論評《市長選の構図と背景》2023明石市長選挙 松本 誠 2023.4.6

▶ 2023年4月:市民マニフェスト選挙(第4次:詳細)

1)4年前を上回る劇的な展開
2)泉市長と市議会の“対立抗争”その内実
3)県議選明石・泉派新人ぶっちぎり当選が意味するもの
4)明石市政の先駆、開拓性と首長の姿勢への評価
このページ・・・その5/8
6)泉市政後継の丸谷氏圧勝、市民自治の明石市政は第2ステージへ
7)市議選も泉旋風全開、現職当選は半数強の17、勢力関係も激変か
8)「泉市政」とは何だったのか? 首長・泉房穂論へのアプローチ
※ 2023.7.30実施 市民自治あかし総会 活動総括資料より市長選関連部分を分冊 PDF
※ 泉市政3年半の検証 ;2022.8 PDF ──「第1ステージ」に相当

 今回の明石市長選は、泉市長を“引退”に追い込み、後継者発表の前にいち早く対抗馬を立てた自民党候補と、「信頼すべき後継者」として指名した「泉市長公認」の候補が真っ向から対立する選挙のはずなのに、それぞれが訴える政策面では似通った主張が多く、どこが違うのか市民には今ひとつ分かりにくい選挙になっている。
 泉市政が強調してきた「こどもを核としたまちづくり」の象徴でもある「明石市独自の5つの無料化」は、泉氏後継の丸谷聡子氏がその継続をトップに挙げるのは当然だとしても、対立する林健太氏も「5つの無料化はあたりまえ」として継続することを主張する。丸谷氏はこれらをさらに発展させていくと訴えるのに対して、林氏も「子育て減税」や「介護減税」をはじめ教育や高齢者医療費などの負担減を挙げている。
 掲げる政策面で異なるのは、丸谷氏が障害者や犯罪被害者支援・更生支援、LGBTQ等の施策推進、得意分野のため池や里山保全、環境教育の推進などを挙げているのに対して、林氏は産業の活性化や住宅・公共施設・インフラ整備など経済発展を強調している側面が強いことなどが対照的である。

子育てや福祉施策を重点に挙げるのは、もはや選挙の争点にはならない

 自治体の政策では、子育てや高齢者施策などさまざまな福祉施策では選挙における政策面での相違を際立たせることが難しくなっているのは、最近の傾向でもある。子育てを重視した政策転換はここ10年ほどで自治体が競って取り組むようになり、国政も遅ればせながら追随せざるを得ない時代になっている。背景に「少子化」問題があるからでもあるが、泉氏がしきりに政府批判しているようにその取り組みのスピードや財源の振り向けに問題があるものの、もはや選挙で訴える争点にはなりにくい課題になっている。教育の負担軽減策も同様である。
 だから、そうした政策を声高に訴えても、もはや争点にはなりにくく、有権者市民には選択肢にするのは困難になっている。
 では、本当の争点は、何なのか? 3つの側面から見てみたい。

第1の争点:市民と市政の距離感、自治基本条例が求める市民参画への姿勢

 第一は、市長と市民、市政と市民の間の“距離感覚”とも言うべきスタンスである。
 明石市は2010年に「自治体の憲法」とも言われる自治基本条例を施行し「市民自治のまちづくり」を掲げて、①市民の行政への参画 ②協働のまちづくり ③情報の共有 ――を市政運営の原則に定めている。その実現のための手続き条例でもある「市民参画推進条例」と「協働のまちづくり推進条例」を制定したが、3つ目の「住民投票条例」は市議会の自民・公明などの多数会派に3たび否決されている。自治基本条例に基づき、市議会は2014年に議会基本条例を制定したが、条例に基づく「開かれた議会運営」の遵守を求める請願に ことごとく反対して不採択にしてきたのも自民・公明を中心にした多数会派だった。
 今回の市長選で自民党・公明党の推薦を受けた林氏は「市民ひとりひとりに寄り添い、支え、応援する明石」を掲げ「全ての明石市民の声を受けとめ実行する」としているが、具体的にどのように市民の参画を保障していくかの中身は語られていない。同氏と、同氏を支持している市議会会派がこれまで取ってきた自治基本条例や議会基本条例への対応との整合性については一切語られていない。
 他方、丸谷氏は8年間の市議時代は一貫して「市民参画の市政」を具体的に訴え、個別の政策に関しても具体的な市民参画のあり方を提案し、その実現を市に迫ってきた。選挙戦の中でも泉氏は「多彩な市民活動の中から徹底した市民参画の市政を取るように、市長にも厳しい注文を付けてきた」ことを後継者とした選んだ要素の一つであることを繰り返し語っている。選挙に際しても本人から「市民目線の市政」「市民とともに明石をつくる」ことを強調し、徹底した市民との対話を自ら実践することやそのための部署もつくると言明している。
 こうした側面での対比は鮮やかと言える。

第2の争点:世界標準でもある地球環境への取り組みの姿勢

 第二の側面は、今日の政治と行政の最大の課題とも言うべき、地球環境に対する取り組みの姿勢である。
 すでに脱炭素社会や地球温暖化を止めるための対応が待ったなしの時代に入っていることは議論の余地がない。明石市は「SDGsの推進」を基本姿勢として掲げてきたが、これを謳った第6次長期総合計画の議論の中でも環境を最優先するSDGsの推進に何かとブレーキをかけて、半世紀前に克服したはずの「経済と環境の調和」の議論を持ち出して抵抗したのは林氏も属していた自民党真誠会だった。これに対して、市議会で本来のSDGsのあり方を繰り返し主張していたのは丸谷氏だった。
 市議会の議論でも、生物多様性を語り、里地里山の保全やコウノトリの棲みつくまちづくりを主張する丸谷氏に対して、環境優先よりも経済の発展や里山や市街化調整区域の開発を唱えて市に迫ったのは林氏など自民党真誠会の会派の議員だった。いわば、経済と開発優先を唱える林氏と、明石市議会切っての環境保全派議員だった丸谷氏との対比は、市長選の政策にも目立たないながら滲み出している。
 地球レベルの課題に、地域でどう取り組むかは全人類的課題であり、明石市の市政の方向が世界の流れに沿うか逆行するかの選択が、市民にも迫られている選挙でもある。

第3の争点:地方分権と自治体の自立、中央直結か対等・協力か?

 三つ目の側面は、地方分権と自治体の自立に対する姿勢である。
 この国が中央集権時代に別れを告げて、国と自治体の関係を「地方分権システム」に移行した2000年から、間もなく四半世紀になる。中央政府と自治体の関係を「上下主従」の関係から「対等・協力」の関係へ180度転換し500件に上る分権一括法を施行したのだが、その後の展開は政権与党と霞が関の抵抗から、揺り戻しや足踏み状態を繰り返し、緩やかにしか進んでいない。残念ながらとくにこの10年ほどは安倍政権の中央集権志向に阻まれ、時には“逆流”とも言える自治体の自立が阻まれることも少なくなかった。
 自治体は国からも県からも、強い自立をめざし、国や県に対しても対等に向き合う姿勢が重要だが、未だに「中央との太いパイプ」を選挙戦で強調したり、中央に依存した政策や市政運営をはばからない動きも多い。
 明石市では、自治基本条例を施行した翌年の市長選挙で県幹部の“天下り市長”を中央政党や県知事が束になって誕生させようとしたのを、69票差の際どい接戦で政党の支援を受けない泉市長が誕生した。泉市政の具体的な功罪は別にして、国や中央との関係で一線を敷いた市政はこの12年間の特徴でもあった。
 今回の市長選の構図を見た場合、自民党の閣僚である西村康稔・衆院議員らが擁立し自民・公明両党の推薦を受けた林氏に対して、議員時代から「100%無所属」を貫き今回も政党との関わりを一切持たずに立候補した丸谷氏との対比は明瞭である。後継指名して支援する泉氏も、最近は国政や県政に対する舌鋒も鋭く、30万都市の存在感を見せつけてきた。

:::

 市民の目からは違いを見つけにくい個別の政策よりも、こうした側面から候補者を見極め、地球環境時代の世界の流れに沿う自治体の未来、地方分権時代をけん引する自治体の姿勢、市民が文字通り主役になれる市政運営をだれに託すべきかを考えることが、投票日を前にして何よりも求められているのではないか。

🚩::: まちのこえ ::: きいて はなして ::: 投稿form :::

シェアする

フォローする