高齢者への「食事サービス」の志は何なのか?

2008.5.12 松本誠

NPO 5年間の実績と明石市の事業の後退

 明石市と神戸市にまたがる明舞団地(明石・舞子)の中央(明舞)センターの空き店舗を利用した、高齢者への食事サービス事業「ふれあい食事処 明舞ひまわり」がスタートして4年半が経過した。高齢者の食事改善をライフワークとしてきた元・兵庫女子短期大学教授の入江一惠さんをリーダーとして2003年10月に設立された「NPOひまわり会」が運営、40~50人の男女ボランティアが朝8時過ぎから夜7時過ぎまで調理や弁当の配達に汗を流している。

 当初は1日30食程度の昼の定食を提供していたが、ニーズが増えるにしたがって次第に規模が拡大し、今では食堂で提供する昼の定食30食程度のほか、昼と夜のお弁当を各30食程度配達し、週4日連日100食程度を供給する事業に育っている。私も創立当初からの非常勤理事として、財務と渉外、広報などを担当している。

多様な機能果たす、「食」をとおした福祉コミュニティーづくり

 「明舞ひまわり」のモットーは、「食」をとおした福祉コミュニティーづくり。旬の食材をたっぷり使った、なつかしい家庭の味。安心・美味・栄養の三拍子そろった、からだにやさしい食事。生産者と調理する人、食べる人が互いに心かよいあう協働の場。「食」をとおして、海の幸・山の幸、農業や漁業、環境や自然、暮らしのありようを考え、子や孫に食の楽しさ、食のいのちを伝える。

 そんな志を持った食堂に、人びとが集まらないわけがない。昼の定食は早々と売り切れ、配食の申し込みもニーズに対応できないほどの増え方。食事サービスだけでなく、関西でも有数の高齢・成熟団地のコミュニティーづくりにひと役買っている。商業施設や集会施設を活用した餅つき大会、クリスマスなどの季節のコンサート、独居高齢男性の食の自立をサポートする料理教室、暮らしと健康を考える講座の開催など、商店会や自治会などと連携したイベントにも、NPOの持ち味を発揮し住民から頼りにされている。食堂に食べに来ることが困難な事情のある人を対象にした配食サービスでは、安否確認の機能を果たすだけでなく、食事の提供活動を通じて対象者個々の健康状態のチェックの役割も果たしている。

お粗末な市の食事サービス事業、さらに後退へ

 そんな活動で忙しい日々を送っている入江一惠さんは最近、78歳の怒りがこみ上げている。明舞ひまわりは、地元の神戸市や明石市から高齢者の食事サービスについて助成金をもらっていないが、明石市の高齢者への配食サービスが大きく後退しようとしているからだ。

 明石市の高齢者食事サービス事業は、中学校区ごとに月2回の給食サービスを市の社会福祉協議会を通じて行っている。1回は、市の保健センターや地域のコミセンで調理した弁当を各校区のボランティアが70歳以上の一人暮らしや虚弱高齢者の一部を対象に戸別配達している。もう1回は給食弁当事業者に調理を委託し、各地域のボランティアが配達している。

 月2回では、とても食事サービスとはいえないうえに、一般の給食弁当業者まかせでは、高齢者の栄養改善には寄与しないという批判があるが、明石市は「食事サービスは引きこもり予防が目的で、栄養改善は事業の目的とはしていない」という。

 こうした問題点は、昨年の市議会でも取り上げられ、抜本的な改善を求める意見もあったが、市は逆に今年から配食事業をさらに後退させる方針を打ち出している。4月に民生委員やボランティアを集めた会合では、調理施設の老朽化で食品衛生上の心配もあることや、ボランティアの高齢化で戸別配達の人手を確保するのが難しくなっていることなどを理由に、市の食事サービスは「会食」だけに絞るという。コンビニなどが普及し弁当の必要な人は入手可能な時代になっていることや、個人宅への配達は引きこもり防止の役に立たないことなども挙げられている。

 これに対してボランティアなどからは、コンビニ弁当で虚弱高齢者がいのちをつなげられるのかという疑問や、ボランティアなど地域の住民の努力を信用していないという不満も聞かれた。入江さんは「虚弱高齢者の食事がコンビニ弁当で事足りるという現状認識に我慢がならない。食事サービスを必要とする高齢者の実態は、そんな生やさしいものではない」と憤る。

市民の先駆的な活動に学ぼう

 高齢者の食事サービスは、介護予防の観点からも「バランスのとれた食事と適度な運動」が不可欠で、在宅独居、寝たきり高齢者、高齢夫婦、食事を通じた健康改善の必要な虚弱高齢者などへの栄養改善と、配食サービスを通じた安否確認が求められている。そのためには、地域の住民や行政、専門機関が協力しての体制づくりが不可欠だ。

 昨年夏、明石まちづくり市民塾が開催した「福祉のまちづくりを考える」連続講座で、大阪府下の食事サービス先進都市のNPOのリーダーは「明石市の食事サービスは25年遅れている」と評価し、話題になった。市民が地域社会の担い手として食事サービスの理想を追求し、継続的な活動がお膝元で実績を挙げているのに学ぼうとしないことに、より深刻な状況を読み取れる。

 住民主体のまちづくりは、市民の多様な先駆的な活動に行政が学び、取り入れ、制度化していくことに醍醐味がある。そうした活動を積極的に知ろうとしない行政があるとしたら、論外である。

シェアする

フォローする