住民自治の担い手を…どうつくるか

2008.6.12 松本誠

住民自治の担い手、「地域自治組織」をどうつくるか
── “市民分権”の視点が欲しい自治基本条例づくり

 明石市が昨年から「自治体の憲法」ともいわれる自治基本条例づくりに取り組んでいるが、昨年7月にスタートした自治基本条例検討委員会(山下淳会長、14名)はこの6月末にも「中間的なまとめ」を取りまとめようと審議を重ねている。

 この検討委員会の発足にあわせて結成し、市民の立場から基本条例づくりの進め方や「参画」や「協働」のあり方などについて議論し、委員会などへの提言活動をしてきた「住民自治研究会あかし」が、6月9日開かれた第17回検討委員会に「地域自治組織の具体化へ向けての意見書」を提出した。私も研究会メンバーとして事務局を担当しているが、来年3月制定を目標に佳境に入ってきた条例づくりの終盤を控えて、検討委員会の委員諸氏はじめ市のほうに考えていただきたい視点を記しておきたい。

地域への権限と財源の「市民分権」めざす自治体改革の視点

 研究会の今回の意見書は、地方分権時代が進む中で住民自治をより一層高めていくための仕組みづくりでもある自治基本条例の策定には、基礎自治体である明石市の行財政と事業を「市民分権」していく視点の重要性を喚起している。

 そのためには、地域において自律的な地域自治組織をつくり、地域における課題を自律的に解決していく能力と仕組みを持つとともに、市の長期総合計画など中・長期的なまちづくり計画に関わっていく仕組みを明確にすることが重要としている。すなわち、これまで市役所が行ってきた事務事業の一部を地域住民組織の自主性に委ねるという、権限や財源の一部を地域自治組織に委譲する大きな自治体改革が求められている。

 こうしたことは、すでに三重県はじめ全国のいくつかの自治体で本格的に試行されており、市民分権は地方分権・住民自治を進めるための大きなカギとして位置づけられている。

 意見書が提示する「地域自治組織の具体化へ向けての課題」は、市民分権の受け皿としての地域自治組織の具体的なイメージを共有しないかぎり、地方分権や住民自治、参画や協働、協働のまちづくり-などのキーワードを並べても地方分権・住民自治の実体化は絵に描いた餅になることを指摘している。自治基本条例を制定する目的自体があいまいになりかねないことを懸念するものである。

「協働のまちづくり」推進方針の具体化の遅れ

 明石市は2年前に「協働のまちづくり」に関する基本的な考え方を取りまとめて、小学校区を単位とした「協働のまちづくり推進組織」をつくり、地域の合意形成を進めていくことを方針としているが、その後の具体的な展開については明らかにされていない。協働のまちづくり推進組織が、自治体としての明石市の中でどのように位置づけられ、どのような仕組みのもとに住民自治を進めていこうとしているのかについての検討もないままに、いきなり自治基本条例の策定に突っ込んだ“歪み”が、ここに来て基本条例づくりのネックになってきたといえよう。

 検討委員会の審議の中でも、市民参画条例などの住民自治にかかわる個別条例等の検討や整備が先行して、それらを市政全体の中で包括的に位置づける基本条例づくりが望ましいが、後先逆になってしまったので、まず包括的な基本条例をつくり、そのうえで個別条例や制度づくりの課題を提示していく道筋をとることになった。

 そうした道筋は確かにあり得るが、そのためには住民自治の基本が十分議論され、理解されたうえで初めて成り立つ。残念ながら、これまでの議論では、地方分権・住民自治の視点に関する議論が極めて不十分で、検討委員会や市の内部でも認識が共有されているとは言いがたい。「条例で理想的なことをうたっても、地域の現場ではほど遠いのでは意味がない」というような議論さえ聞かれる。

「中間とりまとめ」をたたき台に、市民的議論の展開を

 自治基本条例を「自治体の憲法」と位置づけるなら、これからはじまる分権型社会と自治体のあり方についての深い洞察が必要である。いま、全国で自治基本条例づくりが焦点になっているのは、自治体が名実ともに住民自治に根ざした「地方政府」として自立していかねばならないことを、ひしひしと感じているからである。ある意味ではこれまでの自治体運営から飛躍した発想と展望を持って、新しい自治体運営の仕組みをつくっていく気概がなければ、自治基本条例をつくる意味はない。

 これまでの議論の過程では、現行の自治体運営の仕組みを追認していくための条例づくりかと錯覚しそうなこともあった。いまどき、自治基本条例を単なる“勲章”代わりに考えている向きあるとしたら、世間の物笑いになりかねない。

 検討委員会の「中間とりまとめ」が、文字通り「今後の議論のたたき台」としてまとめられ、そのように市民的議論を巻き起こし、検討委員会と市役所内部での本格的な議論が展開されるスタートとなることを期待したい。

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