旧明石市立図書館の保存と活用に関する提案書

 本提案は、2024年4月20日に当団体が主催した「旧・市立図書館の保存と活用を探る」と題した第43回市民市民まちづくり講座における議論を集約して、提案書として取りまとめたものです。

2024年5月14日 市民自治あかし

──丸谷聡子明石市長と旧図書館問題を担当する政策局プロジェクト部に提出

1 旧市立図書館の利活用は「解体ありき」ではなく、文化資産である建物の耐震補強と改修による活用を検討するべきです

 明石市が5月1日発表した「旧図書館跡地をみんなで考えよう」というワークショップの案内は、「旧図書館跡地」という解体後の施設利用に限定しています。県立図書館は耐震補強と改修工事を行い、少ない費用で末永く建物を大事に使っていこうとしているのに、明石市は「解体ありき」の手法を前提にしています。
 今年10月でまる半世紀になるこの施設は、県立と市立の両図書館の建物の一体性を有し、明石公園の風景に溶け込んだ貴重な文化資産です。さまざまに制約の多い県立公園内の施設を解体し、新たな施設を建設することの制約も厳しく、SDGsを掲げる明石市としてもスクラップ&ビルドのやり方よりも、既存の施設を大事に使っていく方策の方がはるかに費用も安く、市のまちづくりの方針にかなっています。県立図書館の耐震補強と改修に続き、両施設の一体性を尊重した既存建物を活かす選択肢も含めて活用方法を検討すべきです。

2 半世紀におよぶ2つの図書館の経緯

 旧市立図書館は1974年10月に兵庫県立図書館と一体性を持たせた県立明石公園内の公共施設として開館しました。今年10月で50年を迎えます。両図書館建設の経緯には曲折はありましたが、「図書館の図書館」として県内の公共図書館をバックアップする機能を持つ県立図書館と、市民が直接利用する機能を有する市立図書館が一体となった、当時としては全国的にもユニークな施設として建設されました。市立図書館には明石市の中央公民館も併設され、2001年4月に明石駅前の再開発ビル内(アスピア明石8階)に生涯学習センターが開設されるまでは、明石市の社会教育施設として社会教育と市民活動の拠点になっていました。
 ところが、明石市が明石駅前に建設された新たな再開発ビルに2017年1月市立図書館を移転したことから県・市立両図書館の一体性が失われ、市立図書館の一部は2020年3月まで「ふるさと図書館」として郷土資料室に利用、中央公民館も「生涯学習センター分室」として利用してきました。市は2020年3月には暫定利用してきた両施設を廃止し、以降は“空き家”になっていました。
 この間、県は明石公園の管理者である東播磨県民局長から「2023年3月までに原状回復と土地返還を求める」という文書が市に送られ、市は求めに応じる報告はしていたものの「施設解体に8億円を要する」ことを理由に対応に苦慮し、返還期限を超えて対応を先延ばしにしていました。
 一方、県立図書館は2016年から17年の2か年で約14億円をかけて耐震補強工事を行い、向こう30年間は使用を継続できる条件を整えて改修を終えています。

3 市と県の対立構図の中で翻弄されてきた挙句の図書館解体と新施設建設は妥当か

 経緯で明らかなように、本来この両図書館は一体性を有したもので、建築物としても明石公園の緑の景観に溶け込んだ文化的価値のある建物です。市立図書館が移転したからと言って、建築物として有用な建物を解体して更地に戻すという方策は、ここ数年の前市長と県とのさまざまな対立構図から政治的に取り扱われてきたきらいがあります。
 市立図書館移転後の建物をどうするかという協議を県と行うことなく、移転前日に一方的に移設を報告したり、市役所新庁舎建設に関連して明石港東外港の県有地に耐震改修工事を行ったばかりの県立図書館の移転を求めるなど、県を刺激する対応が重なっていました。他の数々の政策分野でも県と市の対立構図が加速する中で、県は「期限までに更地にして返還」を求める異例の対応にも出ました。
 他方、知事が交代後も一時は新知事とも波長が合わないこともあったが、2022年4月11日にようやく知事と市長の会談が実現して懸案事項に一定の解決をみました。旧図書館に関しては、この会談で斎藤知事は「契約だからと言って、更地にして返せというつもりはない」と言い、民間投資を入れながら8億円(解体費)を圧縮するという市の提案に理解を示しました。
 その後は泉市長の再度の暴言に伴う退陣表明や新市長の誕生等の曲折がある一方、明石公園が樹木の過剰伐採問題で“炎上”したあと、新知事の伐採中止と県立公園のあり方検討会という大きな流れの中で公園内の施設活用についても新たな議論が生まれました。こうした経緯の中で丸谷市長が2023年12月27日、知事宛に「新年度からのスケジュールを提示し、解体撤去と新施設建設へ向けて取り組む」という報告文書を提出し、新年度予算に必要経費を盛り込みました。これに対して知事は「懸案解決に向けた大きな一歩と受け止める。市民や議会の意見を丁寧に聴きながら進めることが肝要であり、市との連携を密にしながら協力、支援をしていく」とコメントを発表していました。
 他方「解体ありき」の市の姿勢に疑問を持っていた市民らの働きかけもあり、今年3月市議会では公明党議員が「解体を見直し耐震補強して文化資産として評価し、県立図書館と一体的に活用する方法も検討するべきだ」と提案しました。同議員は県教委に確認した資料をもとに、県立図書館の耐震化と改修工事費12.5億円のうち70%は国が交付税措置で支援する緊急防災減災対策債で賄ったため実質的な県の負担は3.75億円で済んだことを挙げ、市立図書館の場合は耐震化と改修工事費を含めて今なら5億円もあれば再利用が可能だと提案し、文化資産として大事に使っていきたいと言えば、県もOKするはずだと促しました。

4 旧市立図書館の建物の有用性と保存の価値

 4月20日の勉強会では、両図書館を50年前に設計した建築家の竹山清明氏が出席し「二つの建物は一体的に空間設計されており、市立図書館がなくなれば建築空間としてはいびつなものになる」と、県立図書館同様に耐震補強と内部の改修を施して有意義に活用していくことを提唱しました。同氏は当時、県の営繕課の技師として「城址公園と緑の空間に包まれた文化施設の外部デザイン」を意識したトータルな基本設計を担当しました。
 同氏はまた、一般に公共建築は50年もすれば取り壊して建て替える事例が少なくないが、兵庫県は古い建物でも修繕に費用をかけて長く活用しようという姿勢を持っていることは高く評価できる。県立図書館の耐震化工事も、一般的に行われている荒っぽい“補強工事”ではなく、耐力壁や壁厚を増やすなどのほとんど目立たないスマートで丁寧な工事が行われ、新築時の空間づくりを大切に保たれている。今後長期にわたって活用する用途についても、蔵書数や蔵書スペースが少ない県立図書館の弱点をカバーするためにも、一部を県立図書館の書庫に活用するとともに、会議室や講演会ホールなどにはそのまま活用が可能であり、本来の図書館機能を活かして充実を図ることができることも提案しました。
 旧市立図書館はもともと広い閲覧室とは別に、学生や生徒用の大きな学習室が確保されており、夏休みなどは緑陰の絶好の環境もあって人気の的でした。駅前の再開発ビル内に移転した図書館は、その立地条件から広い学習室を提供するわけにはいかず、学生・生徒らへの学習空間が決定的に不足している対策として、旧市立図書館の学習室復活が大事です。
 旧図書館にあった「郷土資料室」あるいは「ふるさと図書館」も重要です。これらの部屋にあった資料は駅前の図書館と魚住の文化財保存庫に分散して保管されていると聞きますが、常時公開されていないと意味はなく、新たに郷土資料を受け入れて公開していく体制も急務です。懸案の「明石城下町資料館」の開設場所としても、明石公園内の立地はうってつけです。 また、20日の勉強会で多くの参加者から提案されたのは、災害時の支援ボランティアや自治体の支援職員などに提供する「災害時支援拠点」です。普段は会議室や学習室等に利用しながら、災害時等の緊急時には支援拠点として宿泊も可能な施設として用意しておくことも重要です。簡易な宿泊施設の整備は、平常時でも「泊まり込んで本を読む」ことができる新しいタイプの図書館施設として、立地環境からも格好の活用方法になります。

以上

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