旧・明石市立図書館の行方 奇怪な展開を再検証

1) 旧市立図書館の価値を見直そう

 昨年(2024年)4月20日、市民自治あかしが開いた第43回市民まちづくり講座で「旧・市立図書館の保存と活用を探る」と題した提案と市民討議が行われた。2つの図書館建設をめぐる経緯を検証し、この2つの図書館の基本設計、実施設計と工事監理を担当した建築家の竹山清明氏(当時は兵庫県建築部営繕課の技師)が、建設当時のコンセプトや公共建築物としての価値、これからのあり方について提案した。
 緑豊かな明石公園内に建設するために、建物が突出せず緑の中に溶け込むよう、当初は中庭を中心に建物を段々状に配置し、屋根に植栽を施して小山のような景観を生み出そうとした。さまざまな意見が出る中で、最終的には現在のような建築になったが、2つの図書館を一体的な建築として公園の景観に溶け込ますコンセプトは維持された。
 竹山氏はまた、公共建築物は40~50年もすれば取り壊して建て直す事例が少なくないが、兵庫県は古い建物であっても修繕し、長く活用するという姿勢が高く評価されている。それなりに設計され半世紀も経った文化施設は、地域のシンボル、誇りとして長期にわたって歴史的空間として大事に使い続けて行くことがSDGs時代には何よりも大切だ、と提言した。2つの図書館を一体として建築された経緯もあり、一方を解体してしまうと“いびつな建築空間”になってしまうとも警鐘を鳴らした。
 この講座での議論は、参加した市民の総意に基づき「旧市立図書館の保存と活用に関する提案書」としてまとめられ、講座翌月の5月14日付けで丸谷市長や担当する政策局にも提出された。骨子は以下の4点だった。

① 旧市立図書館の利活用は「解体ありき」ではなく、文化資産である建物の耐震補強と改修による活用を検討するべきです
② 半世紀におよぶ2つの図書館の経緯
③ 市と県の対立構図の中で翻弄されてきた挙句の図書館解体と新施設建設は妥当か
④ 旧市立図書館の建物の有用性と保存の価値

 兵庫県は市立図書館が新築移転する計画が進む中で2016年から2年かけて、県立図書館の耐震補強と全面改修工事を行った。昨年3月市議会で公明党の梅田宏希議員は解体ありきで進めるのではなく「旧市立図書館も耐震補強と改修工事で県立図書館と一体として活用すべきだ」と提案し、市の翻意を促した。同議員が県教委に確認したところ、県立図書館は工事中の仮施設も含めて14億円をかけて耐震補強と全面改修工事を行ったが、国の緊急防災減災対策債を使った結果実質的には県の負担は工事費の30%、4億円足らずで済んだという。また「市の施設の規模は約5000㎡で県立の7割程度だから、工事費の上昇を勘案しても5億円もあればできる。文化資産として残したいと言えば、県もOKするはずだ」と迫った。丸谷市長はこの時「経緯から解体を前提にして進めているが、提案のようなことが可能かどうか考えたい」と答弁したものの、検討結果は未だに明らかになっていないまま、解体ありきで計画が進められている。

2)「解体ありき」の虚構へ、いつ踏み外したか?

 現在進んでいる明石市の「旧図書館の解体」を前提にした「旧図書館跡地の利活用計画」が公けになったのは、2023年12月27日に丸谷市長名の斎藤知事宛ての文書が提出されたことからだ。
 「明石公園に設置・管理している公園施設(旧市立図書館)の撤去について」と題したこの文書には、2013年8月1日付けの東播磨県民局加古川土木事務所が発出した(図書館利用の)許可期限(2023年3月末)を過ぎているが、撤去および原状回復には時間を要する。市が新施設の整備と撤去を一体で進めることへの理解を求め、2023年度下期に活用案を検討して2024年3月に策定予算を計上し2027年度新施設の供用開始をめざすという「想定スケジュール」を明記していた。知事からは翌日28日付けで「具体的な方針が市長から示されたことは、懸案解決に向けた大きな一歩。県としても連携を密にしながら協力・支援を行っていく」というコメントが発表された。
 御用納めのドタバタの時期に、なぜこのような“出来レース”のようなやり取りが行われたのかは定かではないが、市民はもちろん議会も全く知らないまま、こうした計画が公表された。提出されたのは、県立公園のあり方検討会明石公園部会の14回目最終会議が開かれたアスピア明石8階の会議室で、終了直後に市長から県公園緑地課の幹部職員に手渡された。

 この文書の冒頭に記載されている「図書館利用の許可期限」とは、半世紀前に県立公園内に図書館を建設する許可を県が市に出してから、10年ごとに更新されてきた公文書を指す。市立図書館が存続しているなら定期的に更新許可を伝える事務文書に過ぎない。2017年1月に明石駅前の再開発ビルに市立図書館を新築移転した際に、当時の明石市長から県知事に対して「当面はふるさと図書館として暫定利用した後、許可期限までに施設を廃止し土地を返還する」という報告文書を提出していた。2020年3月末に市はふるさと図書館を廃止、上層階に併設していた旧・中央公民館跡を「生涯学習センター分室」として暫定利用していたのも同時に廃止した。この結果、建物は完全に“空き家”になったことから、この時点で県立公園内の施設設置許可条件は完全に消滅し、建物は県立公園内の「不適合物件」になった。
 明石公園管理者の東播磨県民局は翌2021年10月、明石市に対して「2023年3月末までに原状回復と土地返還を求める」という文書を出した。返還期限までまだ時間がある中で、お役所間の文書のやり取りとしては異様な感もある文書だが、これには背景があった。
 2020年夏には、新型コロナ感染症の県の対応について泉市長が当時の井戸知事と厳しい言葉を投げ合ったりした後、2021年7月の知事選を前に年初から泉市長への知事選出馬要請が相次ぎ、4月に自ら「不出馬会見」をする動きもあった。さらに泉氏は現職市長としては異例の「知事選候補者への公開質問書」を発表し、県と市の関係や県立図書館の明石港東外港跡地への移転を打診するなど確執が続いていた。また、工場緑地の規制緩和をめぐって市議会自民党などとの対立が激化し、市長の「再議申し立て」「再議決」「知事への議決取り消し審査申し立て」「知事の棄却裁定」など県を巻き込んでの混乱もあった。このほか全国豊かな海づくり大会プレイベントをめぐる市長と県の対立や明石公園の樹木過剰伐採問題などを通じて斎藤知事との確執もあり、20年後半から22年前半にかけては県と市は“険悪”な関係が続いていた。

 旧図書館については、本来なら再開発ビルへの図書館移転が本決まりになった2013年以降に移転後の旧施設をどうするかについて県との協議を進めておくべきだった。ところが、再開発ビルへの図書館移転は泉市長が初当選し就任直後に突然浮上した計画であり、新図書館建設すら一時は諮問機関をつくったものの、中間報告に至る前の段階で解散させてしまった。移転後の施設活用については何ら検討しないまま、移転前日になって初めて県に通告書を提出する有様だった。
 とはいえ、斎藤知事就任後10カ月経って初めて実現した2022年4月11日の知事と市長の会談で、泉市長は「解体だけで8億円を投じるのは厳しい」と県の協力を求めた。これに対し知事は「思いは分かる。契約だからといって、更地にして返せというつもりはない。民間の投資を入れながら解体費を圧縮して建設をやる方が絶対に安く済む。うちの方でもだいたい素案をかいているので、また提示したい」と応えた。
 この日の会談は記者団にも公開で円満に行われ、詳細な面談記録も報道されている。この会談で明石公園の整備、明石港東外港問題や県立図書館の移転問題なども泉市長にとっては懸案が一挙に解決したとして、基本設計段階でストップさせていた新庁舎建設計画も会談直後に当初計画通りに進める指示をした。

 旧図書館問題について2023年4月末で泉氏が退任後、後継指名して当選した丸谷市長就任後の2023年9月11日、知事から市長にかかってきた旧図書館問題に関する電話をめぐって“大騒動”になったのは、この時の知事・市長会談が騒動の背景にあったからだ。電話があった直後に泉氏がSNSに「知事が謝ってきた」と投稿したことが、県と市の間で大騒動になり、市の内部でも議会が追及する過程で“盗聴騒ぎ”に発展した。
 だが、この騒ぎの経過を丹念に読むと、旧図書館跡を明石市が放置していると報道した10付け毎日新聞記事に対して泉氏がSNSで9月11日午前にまず反応する中で「明石市が放置していたのではなく(2022年4月11日のトップ会談で)知事が約束した提案を放置していたのが事実だ」と、県の対応の遅れを指摘する投稿が始まりだった。10日に知事がこの記事を引用して「今後出される市の方針を踏まえ県と市で協議し、早期に方向性を定めていく」とSNSに投稿したことへの反論でもあった。この時の泉氏の投稿はこの日午前中延べ7回にわたり、知事との会談内容を議事録も含めて詳細に繰り返したことから、11日午後に知事から市長に電話があった際に泉氏の投稿に対する苦情も伝えられた。市は政策局長から泉氏に対して「跡地の活用に関してこれ以上県を批判する投稿の自粛するよう」要請した。
 この直後に泉氏は「 斎藤知事から明石市に本日、お詫びの電話があったとのこと。県からの提案が遅れていて申し訳ない。明石市が検討していただけるなら、ありがたいとの趣旨だったようだ。マスコミの皆さん、よく確認のうえ報道してくださいね。悪いのは明石ではありません」という投稿をしたことから、斎藤知事から電話があったことを誰が伝えたのか?という市議会での追及に発展し、果てには「盗聴騒ぎ」にまで行きついた。

 こうした経緯は明石市が2023年10月5日に公表した「旧明石市立図書館跡地に係るSNS投稿に関する調査報告書」に詳しく記録されている。報告書は専門業者に委託して調査した結果も踏まえて「盗聴の可能性はなく、知事から電話があったことが市役所内部から前市長に伝わったものではない」と結論づけた。また、前市長からは「複数のマスコミ関係者から知事からの電話の事実を聞いて、 自らの解釈として電話の内容は斎藤知事から本市へのお詫びであると判断した」という聴取結果も記録している。
 新図書館への移転後、県から「解体撤去して更地を県に返還」することを求められたことは事実だが、斎藤県政になって2022年4月の両首長トップ会談で県はその方針を転換したことも直近の事実経過である。その時点で、県内部では旧図書館の民間による新規活用構想が議論されていたことも当時の県関係者から聴いている。だから知事は「だいたい素案をかいているのでまた提示したい」と答えたのだった。
 こうした経緯を認識しないまま、明石市は2023年末に「解体して新施設建設」の念書を県に報告してしまった。昨年3月市議会では公明党の梅田宏希議員が長時間かけてこうした経緯を説明し、解体ありきの計画を再検討し「当時の建築文化を体現している一体的な図書館建築を文化資産として活用する方策に転換」することを求めた。丸谷市長は「文化資産の価値を継承する視点での議論はしてこなかった。そうした視点での対応が可能かどうか調べさせていただきたい」と答弁したが、その結果は未だ明らかにされないまま、既定方針で進んでいる。

※ ニュースレター記事とは紙面スペースの関係で異なる内容が ややあります

(つづく)

シェアする

フォローする