中東全域への戦乱拡大の中で“高市一強”日本政治の危機的状況を読む

【 誠ジャーナル 2026.3.8 】

 2026年はトランプによるベネズエラの首都空爆を伴う大統領の拉致連行の無法から始まった後、世界も国内も波乱の連続だったが、その余燼の消えないうちに世界が最も懸念していた中東の戦乱拡大が一気に火を噴いた。この4年間、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)に始まって、イスラエルのパレスチナ・ガザ侵攻(2023年10月)、昨年6月のイスラエルとアメリカが始めたイランへの爆撃による12日戦争から半年を経て、2月末から始まった両国による全面空爆はついにイラン最高指導者殺害から主権国家転覆をめざす本格的な戦争になり、戦火は中東全域に拡大している。
 事態が深刻なのは、欧州主要国の多くがイラン攻撃を支持し支援に動いており、国連が全く機能していないことだ。しかも、中東の戦火拡大は即、石油需給の危機に直結し世界経済に致命的な影響を及ぼして新たな“火だね”を引き起こしかねないからだ。
 こうした武力行使と戦争拡大の陰には、関税戦略で世界を振り回したトランプ大統領が今年に入ってから武力行使の中心的存在として、米軍の軍事力をフルに発動させていることがある。関税戦略には連邦最高裁が判決を下し一定の歯止めをかけたが、軍事力の行使には今のところ連邦議会に止める動きがない。
 トランプⅡが始動してまだ1年余だが、すでに世界の主要国はトランプのムチャぶりから米国離れに動く流れが加速している。ロシア、中国、インド、ブラジル、インドネシア、エジプトなど BRICS加盟諸国やその枠組みの拡大をはじめ欧州主要国も中国等に急接近し、米国主導の世界はすでに過去のものになりつつある。そんな状況の中で19日に訪米し5カ月ぶりに日米首脳会談に臨む高市首相がどのような対応をするのかに世界の注目が集まる。

選挙で一変、巨大与党の国会風景が様変わり、質疑半減で予算可決強行策へ

 さて、その高市首相が電撃的に仕掛けて“空前の圧勝”を遂げた解散総選挙が2月8日に終わって、早くも1カ月になる。選挙が済んで10日後に召集された特別国会は第 2 次高市政権のもとで、冒頭解散で先送りされた新年度予算等の審議に入っている。
 しかし、自民党だけで衆議院の3分の2を上回る議席を占めるという戦後初めての巨大与党の出現は、国会の風景を様変わりさせた。一昨年10月の衆院選、昨年7月の参院選と続けて惨敗した石破政権下では、衆参両院とも少数与党の中で衆院予算委員会等の重要ポストを野党に握られて与野党の協議と時間をかけた審議で妥協点を見出す“熟議”が芽吹き始めていたが、一転して強引な「数を頼んだ国会運営」に逆戻りした。
 1月23日に召集した通常国会を冒頭解散して総選挙に突入した時点で、新年度予算の年度内成立は不可能になり、暫定予算で必要不可欠な予算の成立を年度内に成立させて本予算は4月以降の成立になる予定だった。ところが、施政方針演説や代表質問等を終えて 3 月に予算委員会の審議に入るや否や、衆院での予算審議を13日で終えて参院に送り、年度内成立を図るという前代未聞の“超特急審議”の日程を野党に提案した。すべての野党は猛反対しているが、政府と与党は質問時間を半分以下に減らして土曜も使って、形だけの審議日程で年度内成立を図ろうとしている。国会審議のあり方を根底から覆すものだ。
 予算だけではない。選挙中から高市氏自らが強調していた「国論を二分する政策」等を相次いで具体化し、武器輸出の容認(5類型の撤廃)やスパイ防止を図る国家情報局創設、防衛力の抜本強化、国章損壊罪、選択的夫婦別姓法案を否定する旧姓使用法制化、皇室典範の改正等の具体化を次々に進めている。

豪雪下の解散総選挙を強行、野党の新党攻勢へ先制

 こうした強硬姿勢を打ち出すことになった解散総選挙の経過も振り返っておきたい。
 10月21日に発足した高市政権は、石破政権時代から続く少数与党下で維新との閣外協力という変則的な連立を組んで、臨時国会を乗り切った。「安倍後継・右派政権」の性格を前面に押し出したものの、維新は「いつでも離脱」の構えを崩さず、自民党内の結束にも不安材料が少なくない。国会は野党第一党の立憲に予算委員長を握られ、首相は「自分ばかり指名する」と愚痴をこぼす中で、補正予算も野党要求も入れながら成立にこぎつけ、年末には122兆円余の過去最大の新年度予算案も閣議決定して、1月に召集する通常国会へ舞台は移るかに見えた。
 新年早々始まったトランプによるベネズエラ首都空爆による大統領の拉致連行という蛮行の報道が続く中で、9日深夜に読売新聞が発信した「通常国会冒頭の解散総選挙断行」報道から政治情勢が一変した。与党幹部にも寝耳に水の“高市身勝手解散”へ動き出す中で、15日には対抗するように立憲と公明が新党「中道改革連合」の結成を表明し与野党対決の構図が決まった。19日には首相会見で23日の通常国会冒頭解散を正式に表明。当初は「自民で過半数」の勝敗ラインを出していたが、公明と立憲の電撃的な新党結成を前にして維新も含めた「与党で過半数」に後退させ、過半数を割れば高市も維新の吉村代表も退陣するとした。
 投票日まで期間も最短日数、真冬の豪雪下という初めて尽くしの選挙に加え、大統領選と勘違いしたような「高市を選ぶかどうかが最大の争点だ」と啖呵を切った選挙は、文字通り安倍政権を上回る「高市右派政権」による外交、軍拡、財政と暮らしの破綻にストップをかけることが最大の争点になった。支持率が低迷する野党にとっては、とりあえずは政権与党を過半数割れに追い込み、次のステップとして「中道」を軸にした「健全保守・中道」政権をめざすしかなかった。本格的な多党化時代に「二大政党」をめざす中道路線が通用するかどうかの不安はあったが、先ずは「多党化時代のよりましな政権」から次の時代へ向けた政治構造への転換を模索していくほか道はない──という見方もあった。

衝撃的な選挙結果、戦後初の単独3分の2議席占め、野党議席は壊滅的

 選挙は日を追うにしたがって衝撃的な展開になり、自民党が単独過半数(233議席)を大きく上回る 316議席を獲得し、少数与党の参院で法案を否決されても再可決できる3分の2(310議席)を超えた。一つの政党が3分の2議席を確保する戦後初めての歴史的圧勝に終わった。中道改革連合は公示前の167議席(立憲143、公明24)から3分の1以下の49議席(立憲21、公明28)に激減した。維新(34→36)と国民(27→28)は微増に終わったが、共産(8→4)れいわ(8→1)も激減した。これに対し参政(2→15)とみらい(0→11)は 2 ケタ議席に伸長した。
 れいわの1議席は自民への比例配分14を他党に回した分だったことから、社民と同じく実際はゼロ議席と壊滅していたことになる。同様に中道の比例獲得議席42のうち6議席は自民獲得議席から回ってきたものだから、実際は選挙区7を合わせても43議席にとどまっていたことになる。また、中道は立憲出身が143から21へと壊滅的だったのに対して、公明出身が24から28へと4議席増やしている。したがって微増した国民を除けば、かつての「野党共闘」勢力は壊滅的な結果に終わったと言える。
 こうした選挙結果にもかかわらず、「高市一強政権」は盤石とは言えない。冒頭に述べた国際情勢が、日中関係の悪化や円安、金利上昇に加えてエネルギー危機等から経済財政面で苦境に立たされることや、対米一辺倒の高市外交が政権を足元から崩しかねないからだ。政権を支える体制や陣容の脆弱さも不安定要素とされる。自民党内でも高市政権を生み出す原動力になった麻生副総裁との軋轢や、石破政権を支えてきた旧閣僚などの政権批判の動きも垣間見えるようになっている。

多党化に対応した政治と選挙の仕組みへ、市民の政治への関わり方模索

 問題はこうした政権の弱点を衝く野党側の政治勢力に、その結集力が乏しいことだ。リベラル左派の立憲、共産、れいわが壊滅状態になり、中道も惨敗からの回復の道筋が見えず、政党の枠組みの中では右傾政権への対抗軸が見えない。既成政党が国民の期待を担えない状況は、いま世界に共通する課題だ。間隙を縫って欧州では右派政党が力をつけ、多党化現象が進む波が日本にも押し寄せている。
 選挙を「推し活」と同列視する風潮に迎合する政党や政治家の横行が、政治を歪めて、平和と暮らし、社会の危機を深めていく。今こそ政治を政党や政治家にお任せする体質を払拭し、主権者である市民が声を挙げていく新しい道筋、チャンネルを見出していく時ではないか。多党化時代にふさわしい選挙制度のあり方も含めて、市民目線からの模索を始めたい。

(了)

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