雨水を一気に川へ流さない「流出抑制型」を

2008.8.19 松本誠

雨水を一気に川へ流さない「流出抑制型」の都市づくりを
── 局地的集中豪雨と神戸・都賀川災害にみる危機管理のあり方

 7月28日の午後、神戸市の都賀(とが)川で起きた局地的集中豪雨災害は、あらためて“対症療法”的な河川行政の欠陥を見せつけた。子どもたちをはじめ5名の尊い命を犠牲にしてもなお、議論の中心が「緊急時の避難対策」にかたより、都市部における瞬間的な河川水の増水の原因に目を向けて、根本的な対策に力点をおいた議論が乏しいのが気にかかる。

市街地に降った雨水が排水管で川へ直結

 都賀川はじめ六甲山の南麓にある神戸市街地の河川のほとんどは、すでに100年に1回の洪水にも耐えられる河川整備が完成している。今回の豪雨による河川流量の大きさはそこまでにはいかないことから、川からあふれることはなかったが、コンクリートで固められた市街地の雨水が雨水排水管を通じて一気に川に流れ込んだことが、急激な増水につながったとみられている。

 宅地化された山すそに集中的に降った雨、川底と両岸をコンクリートで固めた三面張りで流速を加速する川の構造、市街地に降った雨水の大半が一気に川に流れ込む都市構造──などの要因が複合的に重なって災害につながったとみられている。

武庫川流域委員会の「総合治水」提言生かせ

 そうなると、武庫川流域委員会が執拗に議論を重ねて、これからの河川整備計画に重点的に組み入れるように提言した、流域全体での雨水流出抑制対策の議論を思い起こさざるを得ない。

 「武庫川の総合治水へ向けて」と題した兵庫県知事への提言書(2006年8月)では、これまでのように「洪水を川の中に閉じ込めて、洪水対策を川の中だけで考える」ことを改め、降った雨をできるだけ流域全体で流出抑制する方策を列挙した「総合治水」の考え方に特徴がある。山地では森林を育てて山の保水力を高めるとともに、農地や市街地でも降った雨をすぐに川に流さずに一時的に滞留させる流出抑制策をとることにより、川への流量負担を軽減することをめざしたものだ。

 具体的には、田んぼに雨水を溜める“田んぼダム”構想や、学校の運動場や公園、大規模駐車場などに水深20~30センチ程度の雨水を一時的に滞留させて川への流出を遅らせる対策の整備などである。個人住宅などでも一時的に雨水を貯留したり、降った雨を直接排水せずに地下浸透させる構造を推進するなどの雨水対策を、環境対策を兼ねて進めようという提言だった。

 こうした提言に河川整備を進める県は、考え方には賛同したものの、具体的な取り組みについては河川部局と教育や都市計画、農林部局などとの縦割り行政の壁を破れず、基本方針の中では質量ともに対策のレベルをダウンさせている。自治体の中では、西宮市のように、すべての学校の運動場に流出抑制対策を整備するというところもあるが、河川整備対策の観点から総合的に取り組む行政姿勢は遅々とした状態である。

「緊急避難」偏重の危機管理対策から脱却を

 また、洪水などの危機管理対策は、緊急時の避難体制や情報提供のシステムなども重要であるが、同時に想定を超える洪水に対しても致命的な被害を避けるための既存河川施設の強化や、都市構造の「耐水型都市」への転換を図ることも重要である。想定を超える洪水にも耐えられる堤防強化策や、地盤の低い浸水想定地域では地盤の嵩上げや土地利用規制、建物を高床式に変えるなど、都市政策によって都市構造を変えることも重要な対策である。

 こうしたことはいずれも、従来の縦割り行政の枠を越えて総合的に取り組まねばならないのだが、理屈の上では理解できても、行政組織上の壁を突破できない現実の前に立ち尽くしている。

 都賀川災害の一報を聞いた際に、最初に頭をよぎったのは、阪神・淡路大震災直後に市民や専門家から提案された神戸市東部地域の復興計画案の一つだ。鉄砲水に襲われる六甲山南麓の市街地の河川にたくさんの枝水路を横出しして街なかに水路を張りめぐらせ、密集市街地に水辺環境をよみがえらせるとともに、水路の下にもう一つの地下水路も造って、雨水の一時貯留、流出抑制の滞留槽に活用したらどうかという提言だった。

 提案は残念ながら、その後、闇から闇に葬られたが、河川整備と都市政策を一体的に考える発想があれば、と残念に思う。

※武庫川流域委員会の2006年8月提言書は下記のHP(PDF)
兵庫県/(阪神北地域)武庫川流域委員会

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